目が覚めると、窓の外がいつもと違う白さをしていた。
カーテンを引くと、見慣れた景色が消えていた。隣の家の屋根も、遠くの山の稜線も、すべてが白い息のなかに溶けている。霧だ、と思う前に、ただその白さに見とれている自分がいた。
霧の朝は、世界が一時停止するような気がする。音も、遠くへ行く前に綿のなかへ吸い込まれてしまう。犬の声も、どこかの踏切の音も、遠くて近くて、向こうとこちらの境界があいまいになる。
コーヒーを淹れた。湯気が白く立ちのぼり、窓の外の霧と同じ言葉で語りかけてくるようだった。
霧はいつか晴れる。それはわかっている。でも今この瞬間、世界がこんなに静かに隠れていることを、もう少しだけ惜しんでいたかった。
消えるとわかっているものを、美しいと思う。それだけで、朝はじゅうぶんだと思う。
それでも、時計は正直だった。
霧のなかに消えてしまいたいような気持ちとは裏腹に、針は着実に動いている。支度をしなければ、と思う。傘がいるだろうか、いや霧に傘は意味をなさない、などと考えながら、ようやく椅子を立つ。
美しいものと、行かなければならない場所は、いつも同時にある。でも今朝は、その「いつも」が少し頼りなく感じた。霧のなかの道を、いつもと同じ時間に走っていいものか。時計を見て、少し早めに鍵を手に取った。
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